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2009年3月10日 (火)

メガネを拭くたびに

 初めて会ったというのに、その人は僕のことをとてもよく分かっていた。

 ような気がした――というのが、この場合、正確な表現だろうなあ。直接、言葉を交わすどころか、彼の声を聞いたのだってそれが初めての機会だったんだし。

 先週の土曜日、以前から親交のあった女性コピーライターAちゃんの結婚記念パーティーに出席したのだけれど、そこで新婦に紹介されたのが他ならぬ彼。つまり、新郎のMさんでした。ライブ・パフォーマンスがあって、懐かしい友人の顔ぶれがあって、本当に楽しい時間だったのだけど、ちょうど二人の座っていた場所とは反対の位置に座っていたお陰で、新郎新婦へのお祝いの挨拶は、パーティーがお開きになるまで果たせずじまい。会場出口への廊下には友人たちが長い列をなしていて、その列の一番先では、純白のウェディングドレスとシルキーな銀色のタキシードに身を包んだ二人が、友人たち一人一人に声を掛け、手土産を渡しています。二人のこれまでの人生を振り返ることが出来るようにと、廊下に飾られてあった写真の数々が、列が進むのを待つ時間を退屈から救ってくれました。あれはいい演出だったなあ。そして、ようやく新郎新婦にご対面となった訳です。

 簡単にお祝いの言葉を述べ、あいにく二次会を遠慮する旨を伝えてその場を辞そうとすると、Mさんが何気なく言葉を掛けてくれました。

「メガネ、良く似合ってますよ。どこの(メガネ)ですか?」

 気の利いたセリフじゃないですか。

 自分たちがパーティーのホスト役とはいえ、いかに僕のほうが年上だとはいえ、なかなか言えないセリフでしょう?しかも、僕自身とても気に入ってるメガネだったので、正直、このセリフがほんとうに嬉しかったんです。

「いやあ、この旦那さん、ほんとにいい人だなあ…。」

 お世辞に気を良くして帰路に着いたのですが…。帰り途、どうにも違和感があって気になって仕方がない。何かがちょっと違うような…。そしてハタと気がついたのです。「あの場面でメガネの話はしなくても済むよなあ。『また、今度ゆっくりお話させてください。本日は、ありがとうございました』。そんな言葉を丁寧に繰り返せばノー・プロブレムのはず。というか、そういう風に済ませてしまいがちだよなあ」、ということに。

 じゃあ、なぜ、Mさんはそうしなかったんだろう。

 そういう堅苦しい挨拶は苦手だから?じゃあ、なぜ、わざわざメガネの話なんかしたんだろう。そっちのほうがもっと面倒じゃないか。僕のメガネは、そんなに格好よくビシッと決まっている訳ではないけれど、公平に見て、僕自身の個性がもっとも良く出ているアイテムの一つだろう。それを、式次第だけで頭がいっぱいになっていても可笑しくないあの場面で、初対面の人間の特徴をきちんと掴むだなんて。面倒どころか、誰にでも出来る芸当じゃないし、ましてや、すぐに身につくような能力でもない。

 流暢とはけして言えないまでも、誠実で優しい、ゆっくりとした話し方で、にこやかに笑いながら言葉を投げかけてくれたシーンが思い出されます。

 あなたは、とても、あなたらしいですね――。

 そんなメッセージがMさんの言葉にはあったんだろう。どんな人にとっても嬉しい表現の一つだと思う。このメガネを拭くたびに、この日のことを思い出そう。ほんとうは僕がそういう言葉を掛けなきゃいけなかった場面だったんだけどね(笑)。

 Mさん、今度またじっくりお話を。Aちゃんともども、いつまでもお幸せに。

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コメント

反省点の多いパーティだったんですが
あの一瞬の一言で
そこまで感じ取ってくれるオノさんに
とても救われました。
来てくださってありがとうございました!
次はぜひぜひサンタモニカで
ゆっくりたっぷりお話しましょう^^

投稿: | 2009年3月15日 (日) 08:09

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