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2007年2月 2日 (金)

それでもボクはやってない

最悪の映画でした。

今年の手帳には「小日向文世とか堺雅人みたいになろう」という小さいメモが貼ってあります。にっこりと微笑んでるのが似合うようなそんな中年おじさんになってゆきたいなあ、なんてことを過日ふと思ったので書きとめたものなんですが。まあ、それは僕の個人的な目標なので、この映画にはまったく関係がないことではあるのですが。

その大好きで、僕の中年モデルたらん小日向文世もこの映画に出演しているのですが――彼が最悪です。

もちろん演技が、ではなくって、役柄が、です。

★以下ネタバレに注意です★

小日向文世は意地悪な裁判官の役です。他にも田中哲司が不誠実にも主人公に示談を薦めてしまう情けない弁護士役。大森南朋が意地悪で乱暴な刑事・・・。好きな役者がことごとく悪役とか情けない役に回ってる。こりゃ最悪(しかしそれぞれの演技には実に満足です)。

おまけに結末も最悪です。

周防正行監督の映画で弁護士役に役所広司、シナリオに張られたサイドストーリーの判決が有罪とくれば、結末は逆転勝訴でハッピーエンドってのが普通じゃないですか。それがまあ、最悪な結末ですから、もう見ていて救いが何にもない。見終わった瞬間に敗北感、無力感、そういったものがどよりんどよりんと身を包みます。気分を下げたくない方は絶対にやめておいたほうがいい映画です。

そういう意味で「最悪の」映画なのですが(笑)、周防監督自体は観客にそういう無力感を味わわせることがむしろこの映画をとった目的なんじゃないでしょうか。そういう意味では良く出来ている映画といえますし、まんまと監督の術中に嵌められています。

見終わって二日経って思うのは、ワルい映画というだけだけではなくって怖いのです。

実は加瀬亮扮する主人公が痴漢をやっていないという場面は登場しないのです。何となくカメラの視点が冤罪事件を追っているかのように見えるのですが、後でよくよく考えてみると一方的な視点からは描かれていないのです。痴漢をされた中学生の側に立ってこの映画を観ると加瀬クンは犯人のようにも見えるのです。何だか芥川龍之介の『藪の中』のようでもあります。

となると裁判官や刑事、検事などは多少意地悪が過ぎる態度ではあってもそれはそれで「悪を追求」しているのですから正当性もあるのかもしれない・・・。そう思うと本当にどっちを信じていいのかも判らなくなるんですね。そういうのが怖い。

たぶん冤罪事件の被害者はそんな怖さ―一体何がどうなって、自分がやったのかやってないのかも朦朧として判らなくなってしまうような感覚―に苛まれるのかもしれません。

この二日間、僕を包んでいるどうにも気持ちの悪い重い空気は、周防監督が何度も裁判を傍聴する中で味わったものと同じ空気で、観客と共有したかったものなのかもしれません。

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映画」カテゴリの記事

コメント

「最悪」ですか!!この映画、割合評判もいいみたいなので、少々驚きました。…でも上記の記事を読んでみて、「最悪」の気分を起こした、ということなのかなあと思ったんですが、読み違えているでしょうか?

投稿: シーラカンス | 2007年2月 3日 (土) 20:23

>シーラさん
読み違えてませんよ。

ええ、劇場を出るときの気分は「最悪」そのものです。
ただ、映画を作る力量、丁寧さは「素晴らしい」です。

けれども。
僕はやはり映画には娯楽を求める人間なので、
この映画そのものを「素晴らしい」映画だとは
断言しづらいのです。

難しいテーマを良いキャスト、良いスタッフで
撮ってるってのは充分にわかるんですけどね。
そういう方たちにはホントに申し訳ないんですけど、
人に進めたくなるほどいい映画、って風には
感じられないんです。僕は。

映画(というか娯楽全般)から欲しいのは
「負」のパワーではなくって
「正」のパワーなんですよ。

投稿: コイッチ | 2007年2月 3日 (土) 22:30

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主文、評価は満点とす。日本の裁判制度の矛盾点と冤罪事件で被疑者とされた者と弁護士による国家権力に抗う姿、それによって正しき主張をも蔑ろにしてしまう社会の醜さをも描いた本作は大いに評価できるものである。 [続きを読む]

受信: 2007年2月 2日 (金) 07:38

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