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2006年12月21日 (木)

四ヶ月の奇跡

2_20061221k0000m050098020c負けると思ってました。
負けろ、とは思ってませんでした。
でも、きっと負けるだろうな、と。
そう思ってました。

でも彼は僕のその陳腐な予想を打ち破って見事なまでの勝ちっぷりで勝利を収めました。
素晴らしいボクシングでした。
ほんの四ヶ月、たった二つの試合でこんなに試合運びの違うボクサーを僕は初めて見ました。

四ヶ月の奇跡――。

そう呼んでもいいんじゃないかと思います。

前回、第一ラウンドでダウンを奪われて、その後、同じ選手を相手に24ラウンドを戦う。その間、僅差の判定でチャンピオンの座に就いたとはいえ、世の中からは微妙な判定にバッシングの嵐、再戦の延期・・・。その心理的なプレッシャーは今までの日本人ボクサーが経験したどのタイトル戦のプレッシャーよりも厳しいものだったかもしれません。余人には感じることの出来ない想像を絶するプレッシャーだったでしょう。

そう考えると若干20歳の青年がそのプレッシャーに押しつぶされてしまうだろうな、と予想をしたのです。この予想が見事に覆された今でも、僕には自分の推量がそんなに的外れな精神論だったとは思えません。実際、幾ら完勝を収めたとはいえ若きチャンピオンの試合前の心中には不安と恐怖に満ちたストレスが渦巻いていたに違いないのです。

それでも彼は勝ちました。

グローブを高く掲げ最後までディフェンスを固めながらも、隙を見て右からは深いボディで、左からはフック、カウンター、ストレートでテンプルを打ち抜く。けして深追いをせず、隙を見てはボディの連打で単にポイントを稼ぐだけでなく圧倒している印象も与え・・・。それはそれは心憎いまでの試合巧者振りでした。メキシコやタイ、韓国といった国の実力派ベテラン選手に多かったスタイルのボクシングを、僅か4ヶ月のうちに身につけたその吸収力、それを可能にした体力と技術、練習をこなした精神力、理解力。そう想像する先にあるイメージはおよそブラウン管の前で悪ぶって悪態の限りを尽くすイメージとはかけ離れたストイックなイメージです。

KOがなくって残念でしたね。

きっとそういって「あともう少し」をオネダリするマスコミも多いことだろうと思います。でも、これが王者のボクシングというものです。明らかに心理的なプレッシャーは彼のほうが多かったはずなのに、試合振りは逆に余裕綽々。少しずつポイントを稼いで差を広げていき、一発を狙う機会をうかがう相手に逆に焦りさえ与えてしまう。KOほど劇的で判りやすい強さではないけれども、そこにあるのは相手に恐怖すら与える鋼鉄の強さ、静かなる力の壁です。これもボクシング、いや、これぞボクシングです。そしてこれぞチャンピオンです。

終盤、相手を挑発している時の彼は、それまで彼が見せた悪態とは少し違ったような表情を見せました。見せたように思えました。相手の実力をさしたる根拠もなく低く見積もり、馬鹿にしたように哂う――そんな悪態ではなく、どこか安心して挑発をしているような。僅か数ヶ月の間で身についた己の実力の伸びを、かつての自分との差異を五体満身で感じているような悦びに満ちたエクスタシーの表情でもありました。その挑発に挑戦者は乗りませんでした。乗れませんでした。挑戦者の目は怯え、体は竦んでいたのですから。

それまであった以前の彼の悪態――。

あまり見ていて気持ちの良い態度ではありません。プロなのですからある程度ジェスチャーは必要だろうとは思いますが。しかし、ことこのレベルのボクシングが出来るようになったチャンピオンについては、親子兄弟そろってカメラに向かって凄んで見せるような演出はもう不要かと思います。本人がどうしてもやりたいとか、やらなきゃ調子が出ないとかいうのなら別なのですが、昨日の試合を見る限りまったく必要はないようですし。

少なくとも彼自身の心と体が今までの悪態とは違う態度を求めているのではないでしょうか。自信に満ちて、にやりと笑う――本当の意味で「不敵」な態度。演技ではなく自然と出てしまう凄み。そんな姿が見れればいいのですけど。はやくも次戦以降が楽しみです。

お歌がお上手な弟さんのマッチメークのような茶番のないように祈ります。

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